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長崎地方裁判所 昭和57年(ワ)538号 判決

原告

末﨑照子

原告

松山恵子

原告

岩田尚子

右三名訴訟代理人

熊谷悟郎

横山茂樹

塩塚節夫

中村照美

被告

学校法人玉木女子学園

右代表者理事

玉木ますみ

右訴訟代理人

山田正彦

嶺亨祐

國弘達夫

主文

一  原告らが、被告に対し、雇用契約上の地位を有することを確認する。

二  被告は、昭和五七年三月二一日以降毎月二〇日限り一か月当たり、原告末﨑照子に対し金一二万八一三三円、同松山恵子に対し金一二万五八八三円、同岩田尚子に対し金一二万一三八三円の各割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第二項、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文第一ないし第三項と同旨の判決及び仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和二三年二月二五日に設立された学校法人であり、玉木女子短期大学(被服学科、食物栄養学科、幼児教育学科)、玉子女子高等学校(全日制課程、普通科、商業科、被服科、衛生看護科)、玉木中学校、玉木洋裁女学院、玉木幼稚園を経営している。

原告らは、いずれも、長崎県教育委員会より、昭和五四年三月一三日付で教育職員免許法五条一項に基づいて中学校教諭二級普通免許状(家庭科)を、同年四月一日付で同条三項に基づいて高等学校助教諭免許状(家庭科)を授与され、同日より被告学園教員として採用され、玉木女子高等学校被服科助教諭として勤務してきた者であり、被告からの賃金として一か月当たり、原告末﨑照子は金一二万八一三三円、同松山恵子は金一二万五八八三円、同岩田尚子は金一二万一三八三円を二〇日限り支給されていた。

2  被告は、原告らに対し、昭和五七年二月二六日、玉木女子高等学校校長玉木卓郎を通じて「同年三月三一日をもつて高等学校助教諭の免許が切れるので退職してもらいたい。これに応じなければ同日をもつて解雇する。」と通告した(以下本件解雇という。)。

3  しかしながら、本件解雇は次に述べるとおり、正当な事由がなく解雇権の濫用であつて無効である。

(一) 原告らは、いずれも、一年間の試用期間を除いては、何らの条件もなく、雇用期間の定めなく雇用された者である。

仮に、三年の期間を定めて雇用されたとしても、労働基準法一四条により一年を超える部分については無効であり、一年を経過した場合には民法六二九条一項によつて以後期間の定めのない雇用契約として更新されるから、三年の経過をもつて当然に雇用契約が終了することはない。

また臨時免許状の一種である高等学校助教諭免許状の有効期間内である採用後三年間に上級の免許状である高等学校教諭免許状を取得することは①教育職員免許法(以下単に免許法という。)六条、別表三による場合は最低限五年の教職在職が必要であるから法律上不可能であり、②通信教育課程の4年制大学に編入学したうえで、学士の称号を得る場合は、夏期スクーリングも最低三、四年は受講する必要があるなど三年以内で終了した者は皆無と言つてよい実情にあるから事実上不可能であり、被告は右事情を知つていたから、「三年以内に、通信教育を受けるなどしてなるべく上級の免許状を取得すること」という条件を付したはずもない。

(二) 免許法二二条、三条は、相当の免許状を有しない者を教育職員(以下職員という。)に任命しあるいは教員として雇用することを禁止している。

ところで臨時免許状の制度は、普通免許状を有しないでも、臨時免許状の基礎資格(以下基礎資格という。)を有する者に対し、採用した学校長の人物に関する証明書、助教諭採用見込証明書などの必要書類を添えて行う免許状授与願によつて短期間に教員資格を取得できるようにした制度であつて、いわば教員として無資格者であつても、基礎資格を持つ者であれば、教員として採用することを認めたものである。

そして臨時免許状の基礎資格を有する者と私立学校との間における雇用契約は、被用者が現に臨時免許状を有しているか否かに拘らず有効であり(名古屋地裁昭和四二年一二月一五日判決、判例時報五一〇号六九頁)、一旦成立した雇用契約は、被用者の臨時免許状が失効したからといつて、臨時免許状取得が事実上または法律上不能となる事由が発生しない限り、消滅しない。けだし当該被用者が基礎資格を有している以上、使用者が必要な協力を行いさえすれば、その教員資格を取得させることが可能だからである。

原告らは、いずれも、採用に当たつて臨時免許状である高等学校助教諭免許状を授与されており、基礎資格を有している者で、右免許状の有効期間を経過した現在においても変更はない。したがつて、現在においても、被告の協力さえ得られれば、高等学校助教諭免許状を取得することができるのであり、原告らと被告の雇用契約は消滅していない。

(三) 使用者が、合理的理由もなく被用者たる教員の雇用契約上の地位を恣意的に奪い去るために、その免許状取得に非協力の態度をとることは、雇用契約を支配する信義則に照し許されない。この意味で、使用者は、臨時免許状の取得に協力すべき義務を、雇用契約上負つている。

また、I・L・O、ユネスコの「教員の地位に関する勧告」四六項は「教員はその職業的身分ないし経歴に影響する専断的行為からも充分に保護されなければならない。」と規定し、さらに教育基本法六条二項は「教員の身分は尊重され、その待遇の適正が期せられなければならない。」と規定するなど、教職における雇用の安定と身分保障は図られなければならない。したがつて、臨時免許状の有効期間によつて、教員の雇用契約上の地位がおびやかされることは許されない。

(四) 被告は、臨時免許状の有効期間が経過した後も、原告らを教員として雇用し続ける以上、臨時免許状の再出願手続に協力すべき公法上及び雇用契約上の義務を負つている。

即ち、免許法二二条によれば、相当の免許状を有しない原告らを教員として雇用し続ければ、被告のみならず原告らまで処罰される結果となる。この様な結果を招来することは、同法上許されないばかりか、雇用契約の目的に反するうえ、雇用契約を支配する信義則上も許されないからである。

被告が、右協力義務を履行しないで、原告らには教員資格がないから雇用契約が終了したと主張することは到底許されない。

さらに、被告は、原告ら以外にも普通免許状を有しない者を多数助教諭として採用し、臨時免許状の再出願手続への協力を数多く繰り返してきており、臨時免許状の有効期間の経過をもつて当然に雇用契約が終了したとは扱つていなかつた。また、被告に限らず長崎県内の各私立学校においては、臨時免許状によつて採用した教諭を、臨時免許状の再出願を繰り返すことによつて長期間にわたつて雇用している例が非常に多い。臨時免許状の有効期間の経過によつて、当然に雇用契約は終了するという被告の主張は、前記臨時免許制度の適用の実態を無視したものである。

(五) 仮に、被告が、原告らの臨時免許状再出願手続に協力しないことが正当化される場合があるとしても、次の場合に制限される。

(1) 原告らが基礎資格を喪失して、新たな臨時免許状の出願手続をしても授与される見込みがない場合。

(2) 原告らが健康上の障害等によつて、事実上教員としての活動ができず、その回復の見込もない場合。

(3) 原告らとの雇用契約が、原告らが任意退職しあるいは解雇が正当であるなど、適法に終了した場合。

原告らについては、いずれも前記三つの場合に該当しないから、被告が、原告らの臨時免許状の再出願手続に協力しないことは許されない。

(六) 加えて、原告らには教員としての適格性に欠けるところはない。

4  また、本件解雇は次に述べるとおり、不当労働行為に該当するから無効である。

(一) 被告経営の玉木女子高等学校(以下高校という。)は、理事長(登記簿上は理事)であり、現校長玉木卓郎の母親でもある玉木ますみ(以下理事長という。)による独裁的、専制的な前近代的労務管理の許に、営利第一主義的な学校運営が徹底して行われている。そのため、高校で働く教職員の身分は極めて不安定な状況におかれるとともに、在籍する生徒の教育にも重要な問題を発生させるだけでなく、教職員の労働強化が全くかえりみられずに放置されるという事態が様々に発生していた。

(二) 高校においては、理事長が被服科の教員であることと、元来裁縫学校として出発したという歴史を反映してか、被服科の教員だけが理事長と被服部会で直結しており、校長、教頭、教務主任の管理体系から外されて、理事長の直接の管轄下におかれて、被服科独自の閉鎖的な運営がなされていた。

その結果、被服科教員は、理事長の独裁的、専制的な労務管理下に直接に置かれていたことになり、他の教科の教員に比べてその被害をより多く受けていた。

(三) 原告らは、いずれも、理事長の独裁的な労務管理の許に自分達の身分が如何に不安定なものであるか、また、被服科の運営が極めて独断的で非民主的であることを身をもつて痛感したため、当時玉木女子学園労働組合(以下組合という。)の書記長であつた宮崎敏博教諭の勧めもあつて、自分達の身を守るため進んで、もう一名の被服科教員と共に昭和五四年六月一日組合に加盟した。

(四) その後、原告らは、理事長の独断的、専制的な被服科の運営に因つて惹き起こされている様々な問題についても、教員が力をあわせることによつて、組織的に解決を図る他はないと考えるに至り、そのため、被服科の中で発生している様々な問題を、その都度、組合に問題提起するようになつた。そして組合は、原告らが提起する問題について、理事長との間で団体交渉を行つたが、結局何らの解決を図ることができなかつた。

(五) ところで、昭和五五年度には、高校の校長が玉木ますみから森博に、教頭が東千恵子から平山貢にそれぞれ替わつた。これを契機として組合としても、原告らの提起する諸問題の解決のため、中心的な活動家である宮崎教諭を通じて、原告らが積極的に被服科内部の問題とその実態を、その都度職員会議や教科主任会などに提起するように指導し、さらに、宮崎教諭を原告ら被服科教員の指導及び相談の担当者と決めて、以来継続的に原告らの指導にあたらせることとした。

(六) その結果、原告らは、被服科の中で発生した諸問題を、その都度組合に提起し、組合の方針に基づく指示あるいは指導を受けて、それに従つて行動するということが継続して繰り返された。

(七) 被告は、かねてより組合の存在を嫌悪していた。本件解雇は、次に述べるとおり、被告の反組合的な不当労働行為意思に基づくものである。

(1) 理事長は、宮崎教諭に対し、同人が組合に加盟した昭和五三年一〇月以前に、組合について「長崎で一番たちが悪い。」旨発言している。

(2) 理事長は、昭和五三年、当時の被服科教員である古里助教諭に対するいやがらせを繰り返し、結局は同助教諭を退職に追い込んだが、その際「組合から脱退すれば退職しないでもよい。」旨発言し、組合からの脱退を勧奨した。

(3) 宮崎教諭は、昭和五三年三月末ころ、被告に採用されるに当つて、紹介者である下神功より「理事長と組合との間に軋轢があるから、組合に入らないで欲しい。」と言われた。

さらに、昭和五六年三月末ころ、理事長は下神功に電話をし、宮崎教諭の組合活動をやめさせるように話した。その結果、下神功は宮崎教諭に「自分のところに理事長から電話があつて、あんたが紹介した人は正直言つて横着なところがあるから注意しときなさいと言われた。理事長との間がうまくいつていないようだから、自分と一緒に理事長のところに謝りに行こう。あなたは組合活動をやつていますか。労組の役職についているのか。あなたは玉木にはふさわしくないようだから、他の学校に移つたがいいんじやないですか。また、組合活動をこれ以上続けるようだつたら、あなたの進退問題にかかわる。あなたは、いろいろ意見とか何とか言つているようだけれども、ここはずつと我慢して、人形になりなさい。」と話した。

(4) 昭和五四年九月、理事長が採用条件を守らないことに抗議した看護科教員が、いやがらせをうけて退職に追いこまれ、そのため著しい労働強化に陥つた他の教員も退職して看護科の授業が長期間にわたりできなくなり、授業を受けられなかつた生徒が自発的に理事長室に押しかけて抗議する、という所謂看護科問題が発生した。

その際、原告らは、組合の方針に基づいて腕章を着用して被服部会に臨んだ。これに対し理事長は「何よそれは。そんなものつけて。」と述べた。

また、生徒が理事長室に押しかけたことをとらえて「ああいうことをさせたのは組合だ。あの人達は赤よ。」と述べた。

(5) 理事長は、昭和五六年二月初旬ころ、宮崎教諭を呼び「(原告らを含む)四名の被服科教員と関わりを持つな。学校に被服科教員が楯つくのは目にあまる。後押しをしているのはあんたではないか。学校には学校の方針があるんだから、そういうことをしないで黙つていなさい。あんたも、無理なことは言わずに、長いものにはまかれなさい。四名の被服科教員とこれ以上関わりを持つとあんたも辞めてもらわなきやならない。あんたは私の目の上のたんこぶよ。あなたの紹介者はだれ。」などの発言をした。

(6) 宮崎教諭は、昭和五四年、五五年の各年度に二年三組のクラス担任及びソフトボールクラブの担当顧問をしていたが、昭和五六年度以降は、クラス担任及びソフトボールクラブ担当顧問を希望していたにも拘らず、何の理由もなく、これらを外され、今日まで三年間その状態が継続している。高校においては、三年間もの間クラス担任を外した例はない。

(7) また、従前は被服科教員が、被服科のクラス担任となつていたにも拘らず、原告らも、同じく昭和五六年度からクラス担任を外された。

(8) さらに、宮崎教諭の席を、昭和五六年度から職員室の末席に移し、組合が、長崎県地方労働委員会に不当労働行為救済申立(同地労委昭和五八年(ホ)第三号)を行つた後の昭和五八年三月ころまで続けた。

(9) 高校校長玉木卓郎は、昭和五七年四月、庶務主任旗崎好紀に対し「宮崎に対して仕事をさせるな。」との指示をした。これに基づき、旗崎主任は、昭和五七年四月七日の庶務部会の席上「宮崎には仕事をやるな、仕事をさせるなという校長命令が出ている。」との発言をし、庶務部会後、宮崎教諭の質問に答えて「宮崎教諭に落度がある訳ではないが、感情的な面が絡んでいる。これ以上感情的な面を校長との間に深めるとあなたも三先生と同じような目(本件解雇を指す。)に合うよ。」と述べた。

(10) また昭和五七年三月一八日に原告らが、当庁に申請した地位保全の仮処分申請事件において被告は「宮崎氏は当初から、今回の債権者らの仮処分申請事件の主導的役割を担つた人物で、成績不良の本学園卒業生である債権者らを巧みに誘導して、学園内は言うに及ばず、学園外にまで支援活動を拡大して、内外からの学園紛争を企てた張本人であると言つても差支えありません。債務者が債権者らの校内立入禁止の申請を行つた後は、本校内における支援活動の中心的人物であつて……」と、宮崎教諭に対するむき出しの敵意をあからさまにしている。

(11) 昭和五八年五月一五日の職員会議の席上、平山教頭から必須クラブを新設したいので案を出して欲しい旨の提案がなされた。宮崎教諭は、簿記クラブを提案し、他に浜本教諭から将棋クラブの提案がなされた。これを受けて校長の玉木卓郎、平山教頭、教務主任、旗崎主任らが参加する企画委員会が開かれたが、将棋クラブのみが採用された。

そこで、宮崎教諭は、玉木校長に簿記クラブ設置が認められなかつた理由を質したところ、玉木校長は理由を告けずに「自己反省はしましたか。」と述べた。

(12) 宮崎教諭は、昭和五七年四月以降、始業式、終業式、入学式、育成会総会、合同朝礼など学校の公式行事の際、その会場への出席は認められず、必ず職員室の留守番をさせられるようになつた。

(13) 理事長は、昭和五七年四月一〇日、組合の新役員を決定したことを文書で報告した組合執行委員長の立川教諭に対し、「新委員長立川、副委員長林田照子、書記長宮崎と提出されているが、この書類は、林田という人物は本校教員でないので返す。再度改めて提出するように。」と述べて、これを突き返し、組合の自主的運営に介入する発言を行つた。

(14) 被告側の陳述書をみると、原告らと宮崎教諭の言動に対するむき出しの敵意が露骨に述べられている。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  被告は、昭和二三年二月二五日に設立された学校法人であり、玉木女子短期大学、玉木女子高等学校、玉木中学校、玉木洋裁女学院、玉木幼稚園を経営していること、原告らは、いずれも、長崎県教育委員会より、昭和五四年三月一三日付で免許法五条一項に基づいて中学校教諭二級普通免許状(家庭科)を、同年四月一日付で同条三項に基づいて高等学校助教諭免許状(家庭科)を授与され、同日より高校被服科助教諭として勤務してきたことは認める。なお原告らは、いずれも、抽象的に被告学園教員として採用されたのではなく、高校被服科助教諭として採用されたものである。

2  同2の事実は認める。

3  同3の(一)の事実は否認し、(二)ないし(六)は争う。本件解雇は次に述べるとおり、解雇権の濫用に該当しない。

(一) 被告は、原告らを、昭和五四年四月一日付で、次の条件を付して高校被服科助教諭として採用した。

(1) 原告らの有する高等学校助教諭臨時免許状の有効期間は三年間であり、これは法定条件であるから右有効期間満了後は退職すること。なお当初の一年間は試用期間である。

(2) 本校教員として勤務に誠実であること。

(3) 自己の専門科目、教授法その他生徒指導について、しつかり勉強、研究すること。

(4) 前記臨時免許状の有効期間内に通信教育を受けるなどして、なるべく上級免許状を取得すること。

(5) 実績がよければ継続の可能性もあること。

原告らは、昭和五四年六月一日付で、長崎県教職員課長より文書で「臨時免許の有効期間は三年であり、その有効期間が切れると教員としての身分も教育職員免許法三条の規定により当然失われること、臨時免許状の再出願は本来好ましいものではないので……普通免許状の取得に努力して欲しい。」旨の告知を受けている。

加えて、被告は、原告らに対し、機会あるごとに、通信教育を受けて普通免許状を取るように勧めたが、原告らは「三年も勤めない。そのうち適当な人をみつけて結婚し、学校をやめる。通信教育は受けない。」などと言つて被告の勧めをかたくなに拒否してきた。

そこで昭和五六年九月一日、理事長は、原告らに対し「臨時免許状の期限が切れる昭和五七年三月三一日をもつて辞職してもらいたい。」旨の意思を表示した。さらに昭和五七年二月二六日、被告は、高校校長玉木卓郎を通じて、原告らに対し「三月三一日をもつて免許が切れるので退職してもらいたい。これに応じなければ同日をもつて解雇する。」旨通告し、原告らは、同日の到来により高校被服科助教諭を解雇されるに至つたものである。

(二) 相当の免許式を有することは教員の資格要件であり、この要件を欠くに至つた場合は、教員としての地位を当然に失うことになる(最高裁昭和三九年三月三日判決。民集一八巻三号四一一頁)。教員の職務の重要性、専門性を考慮すれば、一定程度以上の資質、資格を持つた者がその勤務に従事すべきであり、免許法三条により免許を喪失した者を解雇することは、その職務の特殊性に照せば、当然のことである。

加えて、前記(一)記載のとおり、原告らは、被告の再三再四の通信教育を受けるようにとの勧告を無視して、教員としての研鑽を怠つたのであるから、臨時免許状の有効期間の経過をもつて解雇したとしても、違法視すべきものではない。

(三) 免許法三条は、相当の免許状を有する者でなければ教員とはなれないことを定め、同法四条においては免許状につき普通免許状と臨時免許状の区別を設けている。

その内臨時免許状については、同法五条三項で「臨時免許状は、普通免許状を有する者を採用することができない場合に限り……授与する。」と、同法九条二項で「臨時免許状は、その免許状を授与したときから三年間、その免許状を授与した授与権者の置かれる都道府県においてのみ効力を有する。」と規定するなど、あくまでも普通免許状に対して、補充的、臨時的なものであるという態度を堅持している。

ところで、原告らは、臨時免許状においては、使用者が作成する人物に関する証明書及び助教諭採用見込証明書を添付して教育職員免許状授与願を長崎県教育委員会に提出する手続を取りさえすれば、自動的に臨時免許状が授与される旨主張する。しかしながら、臨時免許状の更新の場合には、他に実務に関する証明書が必要であり、しかも臨時免許状が授与されるためには、県教育委員会の審査を経ることを要するのであつて、自動的に授与されるものではない。

また、臨時免許状を普通免許状に対して、補充的、臨時的なものとして、その有効期間を三年間と明定した免許法の趣旨に照せば、臨時免許状の再出願に当つては、原告らの所属長である高校校長において、原告らの教員としての適格性を判断して、申請に協力するか否かの裁量権を有しているものと考えるべきである。

原告ら主張のように、被告には再出願手続に協力すべき義務があるとするならば、結果として臨時免許状と普通免許状が同等のものとなり、両者を峻別している免許法の趣旨に反する。したがつて、被告には、再出願手続に協力すべき義務はない。

4  同4の事実は否認する。

5  免許法二二条、三条は、相当の免許状を有しない者を教員として任命し、あるいは雇用することを禁止し、違反した場合には、使用者のみならず、被用者までも処罰する旨定めている。原告らは、高校被服科の教員として採用された者であるから、教員資格を喪失すれば、最早教員としての雇用契約上の債務を履行することはできず、一方被告もその履行を受領できない。したがつて、原告らと被告間の雇用契約は、原告らの臨時免許状の失効により当然に消滅したものである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一被告は、昭和二三年二月二五日に設立された学校法人であり、玉木女子高等学校を経営していること、及び原告らは、いずれも、長崎県教育委員会より、昭和五四年三月一三日付で免許法五条一項に基づいて中学校教諭二級普通免許状(家庭科)を、同年四月一日付で同条三項に基づいて高等学校助教諭免許状(家庭科)を授与され、同日より高校被服科助教諭として勤務してきたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、原告らは、いずれも、「本学園教員として採用し玉木女子高等学校助教諭に任ず。」と記載のある辞令を受けている事実が認められ、右認定に反する証拠はない。他方、〈証拠〉を総合すれば、原告らは、いずれも中学校教諭二級普通免許状を有していること(この事実は当事者間に争いがない)、玉木中学校の入学者は毎年数名であり、もつぱら玉木女子短期大学の学生か教職課程の教育実習を受けるために設置されていること、本件解雇が問題となつてから、当事者双方あるいは組合において、原告らが、いずれも、中学校二級普通免許状を有し、且つ被告において玉木中学校を経営していることを何ら問題とすることなく、原告らの臨時免許状についてのみ問題としてきたことの各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実を総合すれば、辞令の記載にかかわらず、原告らは、いずれも、玉木女子高等学校の教員として採用されたものと認めるのが相当である。

二1  被告は、原告らに対し、昭和五七年二月二六日、高校校長玉木卓郎を通じて「同年三月三一日をもつて高等学校助教諭の免許が切れるので退職してもらいたい。これに応じなければ同日をもつて解雇する。」旨通告した事実は当事者間に争いがなく、前記のとおり原告らは、いずれも、教員として雇用されたものであるから、原告らが教員資格を喪失したことをもつて、解雇事由となし得るものと解するのが相当である。

そこで以下、本件解雇が解雇権濫用にあたるかについて検討する。

2  〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、〈反証排斥略〉、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

①  原告松山恵子、同岩田尚子は、昭和五三年一二月ころ、玉木女子短期大学の建物の玄関に貼られた被告の高校教員募集広告に応じて、翌五四年一月中旬ころ、筆記試験及び理事長の面接を受け、同年四月一日付で高校教員として採用されたが、右募集広告には、雇用期間についての記載はなく、理事長面接においても、家族関係等についての質問の外には、雇用期間などの労働条件の話は全くなかつた。

②  原告末﨑照子は、同年三月二二、三日ころ、玉木女子短期大学の恩師である岩本安生同大学助教授から、被告学園の高校教員として働いてみないかと誘われて、翌四月二、三日ころ、理事長の面接を受け、同月一日付で高校教員として採用されたが、右面接に際しても原告松山らの場合と同様に、雇用期間などの労働条件の話は全くなかつた。

③  採用後、原告らに交付された辞令(前掲甲第四ないし第六号証)には、「一年間は試用期間とする。」旨記載されているが、右辞令以外に原告らと被告間において雇用期間などの労働条件について、書面の授受は勿論、採用までの間に口頭による話合いがなされたこともない。

④  一方原告らは被告に対し、雇用の終期について何らの申出をしたこともなく、通常の期間の定めのない雇用契約、即ちいわゆる終身雇用契約の意思で被告の採用に応じたものである。

右認定事実によれば、原告らと被告間においては、一年間の試用期間の点を除き、雇用期間については、双方とも何らの意思表示がなかつたものであり、かつ、被告は、原告らが通常の雇用期間の定めのない雇用契約を締結する意思であることを当然認識して、原告らを教員として雇用したものと認められるから、原告らと被告間には、一年間の試用期間のある期間の定めのない教員としての雇用契約(以下本件雇用契約という。)が成立したものと解するのが相当である。

3  免許法二二条、三条は相当の免許状を有しない者を教員として雇用し、又は雇用されることを禁止している。而して、本件雇用契約当時、原告らは、いずれも、高等学校教員の普通免許状を有しておらず、有効期間三年の臨時免許状である高等学校助教諭(家庭科)の免許状のみを有していたことは当事者間に争いがない。したがつて本件雇用契約が期間の定めのないものとして正当な解雇事由等特段の事由のない限り雇用関係を継続してゆく合意があるものと解される以上、三年を超えて継続してゆくためには、原告らにおいて、前記臨時免許状の三年の有効期間経過後はこれに代るべき相当の免許状を取得すべく相応の努力をなすべき義務があり、一方、被告においては、原告らが右相当の免許状を取得するにつき被告の協力を必要とするときに、相応の協力をなすべき義務があるものと解される。

4  ところで原告らが教員の資格を継続してゆく方法としては臨時免許状を再出願する方法と普通免許状を取得する方法とがあるが、普通免許状は、免許法五条一項に規定する条件を満たす限り、一律に授与されるのに対し、臨時免許状は、同条三項に規定するとおり「普通免許状を有する者を採用することができない場合に限り」授与されるものであり、また免許法九条一項によれば普通免許状は「すべての都道府県……において効力を有」し、その効力に何ら期限が付されていない、即ち無期限であるのに対し、臨時免許状は、同条二項により「その免許状を授与したときから三年間、その免許状を授与した授与権者の置かれる都道府県においてのみ効力を有する。」のであつて、例外的に普通免許状を補充するものとして免許法上位置づけられるとともに、その効力は大幅に制限されている。加えて現に臨時免許状を有している者が、その失効後に再出願する場合、当初の出願手続と同様の手続が必要であつて、過去の臨時免許状取得の実績も全く考慮されていない。以上を総合すれば、免許法は、普通免許状と臨時免許状を峻別し、臨時免許状を普通免許状に対する補充的、臨時的なものとして扱い、また、臨時免許状の再出願に何ら便宜を図らない点において、臨時免許状の長期化の保障を与えていないものと解される。

原告らは、臨時免許状のみを有する者を教員として雇用した場合、当然に雇用者、被用者の臨時免許状再出願に協力すべき義務がある旨主張するが、前記のとおり臨時免許状は、補充的、臨時的なもので、その地位も免許法上必ずしも保障されていないことに鑑みれば、臨時免許状により教員を続けることは、免許法上好ましくないことは明らかであり、常に被用者の一方的意思でもつて、好ましくない臨時免許状による教員の雇用を規制することになる右主張は、到底採用し難い。原告らとしては、第一次的には普通免許状の取得を考えるべきであり、そのための努力をなし、必要ならば被告の協力を求め得べきものと解する。そして右原告らの努力及び被告の協力によつても普通免許状の取得が不可能であり、かつ右不可能であることを原告ら及び被告が充分知悉しながら、なお通常の雇用期間の定めのない雇用契約が締結され、特段の事情がない限りは三年を超えて雇用関係を継続する合意があると認められる場合に、はじめて原告らは被告に対し、臨時免許状による教員としての雇用継続を要求することができ、被告はそのための臨時免許状再出願手続に必要な協力をなすべき義務があるものというべきである。

5  そこで高等学校二級普通免許状取得の方法について検討する。

免許法五条、六条によれば、①学士の称号を取得し大学において定められた教科及び教職に関する単位を修得する方法と、②教育職員検定に合格する方法とがあるが、後者は臨時免許状取得後最低限五年間の教員としての在職が必要である。したがつて、教員として初めて採用された原告らが、当初の臨時免許状の有効期間である三年以内に普通免許状を取得することは法律上不可能である。

次に、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

①  原告らが被告の教員として勤務しながら学士の称号を取得するには、通信教育課程の四年制大学に編入学するほかないが、高等学校二級普通免許状(家庭科)を取得することのできる通信教育課程の四年制大学は東京都にある日本女子大学一校のみであり、被告もこのことを承知している。

②  同大学の通信教育課程において、原告らが、右免許状を取得するためには、毎年夏期休暇中に、同大学において六週間にわたり行われるスクーリングを最低限三回は参加することを含めて、一〇〇単位を相当数超える単位を取得する必要がある。

③  原告らの如き、高校被服科の教員は、被告学園におけるクラス担任の慣行により、原則として三年間の内、一年間は、被服科一年のクラス担任となる。

④  被告学園においては、被服科一年のクラス担任は、自己のクラスの生徒の冬制服作製のため、夏期休暇中の補習を指導しなければならない。

⑤  被告学園においては、過去原告らと同条件の被服科の助教諭が、三年以内で同大学の通信課程を卒業した例はない。

右事実によれば、被告学園の被服科の助教諭が、三年以内に通信教育により学士の称号を得ることは不可能というべきであり、被告はそのことを当然認識していたものと認められる。

右のとおりであるから、いずれの方法によるも原告らが、本件雇用契約の当初から三年以内に高等学校二級普通免許状(家庭科)を取得することは、少なくとも被告学園に勤務する限りにおいては不可能であり、本件雇用契約を継続させ、また原告らが右普通免許を取得するためには、原告らは、少なくとも一回は臨時免許状の再出願をする必要がある。

そして、被告は右事情を当然認識しながら、臨時免許状しか有しない原告らを、期限の定めなく雇用した以上、これを維持するため被告は、少なくとも一回は原告らの行う臨時免許状の再出願につき、協力する義務があるものと解するのが相当である。

6  ところで、原告らの臨時免許状再出願については、被告学園高校長作成の人物に関する証明書、被告作成の助教諭採用見込証明書が添付書類として必要なところ、被告が右書類を作成するという協力行為をしないために原告らは、臨時免許状の再出願をすることができず、結局原告らが再度の臨時免許状を取得できず高校教員の資格を喪失したことは被告において明らかに争わないところである。

而して、被告は、原告らの教員免許状が失効による教員資格の喪失を理由として、原告らを解雇しているところ、右教員資格の喪失は、被告がその義務を履行しないために生じたものということができるから、このようないわば被告の責めに帰すべき事由をもつて解雇理由とすることは解雇権の濫用と解するのが相当である。

なお原告らの申請に対して臨時免許状が授与されるためには県教育委員会の審査を経ることを要し、自動的に授与されるものではないとしても、被告の協力義務違反によつて右申請手続を封じたものであるから、被告において原告らが申請手続をとつたとしても臨時免許状の授与がなされ得なかつたことを明らかにしない限り、右因果関係の遮断を主張することはできないものというべきである。

また被告は教員資格の喪失により履行不能となつた旨主張するが、被告の協力があれば臨時免許状を再取得する可能性がある以上雇用契約上の債務が確定的に履行不能となつたものとはいえないから右主張は失当である。

以上のとおりであるから、原告らの臨時免許状の失効による教員資格の喪失を理由とする本件解雇は、解雇権の濫用として無効というべきである。

三〈証拠〉によれば、昭和五七年三月当時、原告らは被告からの賃金として、一か月当り、原告末﨑照子は金一二万八一三三円、同松山恵子は金一二万五八八三円、同岩田尚子は金一二万一三八三円を、毎月二〇日限り支給されていたことを認めることができ右認定に反する証拠はない。

四以上説示によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、仮執行宣言について同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(渕上勤 土肥章大 加藤就一)

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